さなぼり

こりゃあ、いかん                  小川 龍二

  こりゃあ、いかん。酒の好みが変わりそうだ。長年守ってきた先日までのこの習慣。この齢にして変わろうというのか。

 長年バカのように死守してきたのは、ビールや酒に焼き鳥や刺身等々が中心の肴だった。ところが過日より焼酎にゆずとレモンを加えた代物をたしなみ始めた。従弟からもらった球磨焼酎をベースにした逸品である。通常の焼酎に苦手を感じる私はしばらくの間放っておいたが、この間同郷の先輩にたしなめられ、通常の焼酎のサワーの造り方も伝授された。この人はサワーと言うし、瓶にはリキュールと表示してある。酒類に不案内の私にはよく分からない。ただ、そのサワーと言う代物も、「たしなむ」とは言いつつもコップ4分の1杯程度の量で先ず口を湿らせ、そのあとにビールを一本あおると言う次第。うん、これだけでも私にとっては大いなる進歩で、これまで一顧だにしなかったことなのである。

 さらに大きな変化がある。酒の肴が根本的に変化した、ということだ。新しい肴、驚くなかれ、別種類の瓶詰2本があればその日の晩酌が済ませられるのである。しかもだ、その瓶詰一本の肴は十分1週間ほど持つだろう。その瓶詰とは? 何のことはない。「蟹みそ」と「松前漬け」なのだ。この「蟹みそ」など、箸の先で舐めるようにちょっと味わう程度で十分。「松前漬け」だって似たようなものだ。年金生活者の日々の生業。これまでに比べたら、随分と安上がりだろう。

 ああ、なんてことだ。実は今、密かに思う。私はいかに世間様の常識とズレていたのか、と。これまでよく知らなかった嗜好品の味わい。過日、思い切って口にしたサワーと、思い付きのような気持ちで手に入れた肴だ。そして今、病みつきになった。

 こりゃあ、いかん。いや、かえって好いのかもしれない。これが最近の晩酌の楽しみになった。サワーの楽しみを教えてくれた我が同郷の先輩には、まだ報告をしていない。この雑文をもって報告としよう。ただ、先輩が「蟹みそ」と「松前漬け」も教えてくれたわけではない。こっちは別物だ。

令和七年九月八日  


 

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