7-2. リュウキンカ と ゴイシツバメシジミ
<リュウキンカ>
図1は、あさぎり町の町花、「リュウキンカ」である。
免田東北吉井の丸池に群生しているリュウキンカである。花期は5~7月。茎がまっすぐに立ち、黄金色の花をつけることから立金花と呼ばれるようになったとのことである。日本各地に分布し、北の尾瀬と称される北海道の雨竜沼湿原にはエゾリュウキンカが生育しており、アジアでは朝鮮半島にもあるそうである。この花は水辺や湿地などに生育し、花言葉は「必ず来る幸福」である。群生地の免田東の丸池から球磨川鉄道の「おかどめ幸福駅」までは約2km、このあたりを散策すれば幸せが舞い込みそうである。
図1. あさぎり町の町花リュウキンカの群生(丸池)とその花弁 (出典:あさぎり町HP) |
花言葉にあやかって、食の魅力を発信する交流施設「リュウキンカの郷」があさぎり町深田西地区にあり、幸せのコミュニティづくりの拠点となっている。また、免田地区には、老後の幸せを期待した特別老人ホーム「りゅうきんか」がある。近くに、寺池親水公園があるが、春にはスイレン科の植物「オグラコウホネ」が丸く黄色い花を咲かせる。このあたりは、100万年前まで球磨盆地が湖だった頃の水たまりが今なお残る湧水池であると筆者は思っている。
<ゴイシツバメシジミ>
人吉球磨地方の名峰・市房山の麓には天然記念物に指定された蝶が生息している。ゴイシツバメシジミ(碁石燕小灰蝶)という蝶で、昭和48年(1973年)に市房山キャンプ場付近で発見された。1975年には、日本国の天然記念物に指定され1996年には、国内希少野生動植物種にも指定されている。この蝶の特徴は図2に示すごとく、羽の表面は黒褐色、裏面はツバメシジミの翅(はね)にゴイシシジミの斑紋を乗せたような模様のチョウである。成虫は吸蜜(きゅうみつ)であるが、幼虫は、深い原生林の渓流沿いでシイやカシ類の木に着生する植物のシシンラン(石弔蘭)はの花や蕾(つぼみ)、つまり、若い果実のみを餌にしている珍しい蝶である。
図2. ゴイシツバメシジミ と 幼虫 出典:九州地方環境事務所サイト |
この蝶の生息地域は、熊本県や宮崎県、それに奈良県吉野郡川上村でのみ生息する。九州の産地は、熊本県の水上村、五木村、上益城郡山都町の内大臣峡(ないだいじんきょう)地区、あさぎり町上地区の白髪岳周辺や須恵地区、それに宮崎県小林市だけである。現在確実にみられるのは、九州でも熊本県水上村と八代市山都町内大臣峡地区の2か所だけと言われている。国外では中国や台湾、インド北東部のアッサム州地方などにも生息しているとのことで、この蝶の先祖もまた、小さな体で南方からはるばる飛来したのであろうか。
<シシンラン>
このゴイシツバメシジミが幼虫の時代の食事は、図3に示す絶滅危惧種のシシンラン(石弔蘭)である。孵化した幼虫は、シシンランの蕾(つぼみ)の内部に入り、葯(やく:おしべ先端の花粉を入れる袋状の部分)や柱頭などを食べて成長する。1匹の幼虫に7個程度の蕾や花が必要となるそうで、約1年間にわたる長期の休眠を経て成虫になる。
図3. シシンラン(石弔蘭)と拡大花弁 絶滅危惧Ⅱ類(VU) 出典:花図鑑 |
シシンラン(石弔蘭)は日本固有種の多年草で、本州の伊豆半島や四国、九州に分布し、隠岐島や奄美大島、中国南部にも自生している。木の幹や岩の上に自然着生するが、広く人工栽培されているため本来の自生個体との区別が困難な状態になっているそうである。現在、絶滅にひんしているシシンランを人工的に増殖する研究が島根県の農業試験場でおこなわれている(島根県農業試験場報告書34号、2003)。それにしても、天然記念物のゴイシツバメシジミチョウが絶滅危惧種のシシンランを食べる!自然界だけに許されることである。