深田 上 免田 岡原 須恵

ヨケマン談義11. 昔懐かしふるさとの味

11-8. 「ダシゴ」と「たつくり」

 煮物には必ず「ダシ」が必要である。今は化学調味料があるが、昔はすべて自然界のものであった。先に述べた熊本の郷土料理「ダゴ汁」のダシも、このダシゴと昆布でとれば最高である。
西日本では「煮干し」のことを「いりこ」と呼ぶが、人吉球磨地方では「ダシゴ」と言っていた。ダシゴは海でとれたら直ちに茹で、乾燥させて出来上がりだが、原料となるカタクチイワシの「片口」とは、下あごが小さく、上あごが前方に突き出ているので、上あごだけの口しかないように見えるところからきている。この小魚は、鮮度が落ちるのが早いため、漁獲からどれだけ素早く加工できるか否かで形と品質が左右される。
カタクチイワシは大きい順に「大羽(オオバ)」、「中羽(チュウバ)」、「小羽(コバ)」、「カエリ」、「チリメン(シラス)」の5種類に分かれ、大羽〜カエリまでが「いりこ」と呼ばれている。サイズでいうと、6~8センチ位のものが煮干しのダシゴ(いりこ」になり、1センチ位の一番小さいのが「ちりめんじゃこ」または、「しらす」である。香川県の讃岐うどんでは、その濃厚な出汁に「いりこ:ダシゴ」が欠かせないが、球磨郡でも味噌汁のだしに、「ダシゴ」が必ず入っていた。本稿では、この煮干しを「ダシゴ」として図1に示す。

ダシゴ カタクチイワシ 自作
図1. (写真:Wikipedia) 図2. (写真:北垣水産) 図3. 自家製
「ダシゴ」の例と柔らかい「たつくり」

 夏になると、必ず、ダシゴ売りのおじさんが自転車でやってきていた。人吉球磨地方は海や漁港からも遠いのに、この「ダシゴ」はどこから来るのかと思っていた。それが近年というより、八代海、謎の海丘群を調べているとき、葦北郡の田浦町の対岸が上天草島の龍ケ岳町で、そこにダシゴの水揚げ漁港があり、文久3年から続く水産物加工所(北垣水産)があることがわかった。佐敷の港まで目と鼻の先であり、佐敷から球磨村までも目睫の間(もくしょうのかん)である。奥球磨あたりまで行商があっても不思議はなかったのである。

 さて、本筋に戻ろう。その「ダシゴ」のどんな思い出かというと、味噌汁の中に入っていた「ダシゴ」だけは、どうしても嫌だった。有名な料理研究家の方の煮干し(ダイゴ)を使った味噌汁の作り方では、ダシゴの頭と腸(はらわた)を取り除き、出し汁を作るのだそうである。母は、そんな勿体ないことはしなかった。出し殻も味噌汁の中に残していた。それを、母親に食べるように言われても、ダシの出てしまったダシゴは喉を通らなかった。食べたふりして土間に落とすと、猫がいつも証拠を隠滅してくれていた。あるとき、それも見つかってしまい、猫も食事時の入室は禁止となった。このダシゴはまずくて食べられなかったというのは筆者だけではなく、水俣出身の小島さんもそうだったと相槌を打っていただいた。

 先述の天草龍ケ岳町の北垣水産のHPを見ていたら、面白い記事を見つけた。それは図1はウィキペディアの写真であり、図2は北垣水産のダシゴ(イリコ)であるが、ここのダシゴは「へ」の字に曲がっている。ダシゴの良し悪しの見分け方は、お腹が裂けていなくて、「へ」の字に曲がっているのが最高とのことである。ただし、味にはほとんど差はないそうである。

 味噌汁のダシゴがまずいと書いたが、乾物としてのダシゴはおいしい。もっとおいしいのが「たつくり」である。「たつくり」は「田作」と書き、別名は、「ごまめ」ともいうそうである。「田作:たつくり」は、カタクチイワシの幼魚の乾燥品を醤油、砂糖、みりんなどで甘辛く調理したもので、正月のおせち料理として欠かせないものの一つである。「田作:たつくり」という名称の由来は、語源由来辞典によると、イワシが豊漁のとき、田の肥料にしたら米が豊作となったのが始まりとされ、田植え肴(さかな)として食べ、豊作を祈願したことに由来している。

 島根県松江市在住の萩田さんからのメールでは、「たつくり」のことを、山陰地方では「からんま」と言うそうで、硬くなく、歯の弱い老人でも食べられる柔らかい「からんま:たつくり」の作り方を教えていただいた。
それは、ダシゴをフライパンで乾煎りして、さっと湯通ししたものを甘辛く煮付けるだけだそうである。湯通しすることで、柔らかい「からんま:たつくり」になるそうである。
図3
は我が家の試作品である。

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