深田 上 免田 岡原 須恵

ヨケマン談義11. 昔懐かしふるさとの味

11-2. 「たくわん漬け

 お茶請けの代表選手であった「たくわん漬け」の話からはじめよう。
筆者が中学生の頃(昭和26年前後)は、まだ学校給食はなく、弁当持参であった。弁当のオカズは決まって梅干し1個と数切れの「たくあん」であった。冬場は弁当を温めるボックスが学校の廊下の片隅においてあり、下に置かれた木炭による温め箱(ぬくめばこ)であった。温まってくると弁当箱の中の「たくあん」が匂いだし、この匂いは、弁当が適度に温まったことを知らせる合図でもあったが、相当な匂いであった記憶がある。いずれにしても、漬物は手作りと保存が可能であり、唯一誰でも食することのできたオカズであった。当時の球磨地方の漬物の横綱格は「たくわん漬け」と「高菜漬けの油炒め」、それに「味噌漬け」であろう。

 「たくあん」は沢庵(たくあん)和尚が創案したといわれる大根の漬物である。「たくあん」という名前の由来についての面白い伝承がある。沢庵和尚は安土桃山時代の禅宗の一つ、臨済宗の僧侶である。その臨済宗本山の大徳寺の首座を務めた高僧であった。沢庵和尚は、常日頃から大根を「たくわえ漬け」にしていたようである。あるとき、徳川 家光(江戸幕府の第3代将軍)が訪ねてきたとき、その大根の「たくわえ漬け」を出したところ、大変気に入り「たくわえ漬けにあらず、沢庵漬けなり」と言ったことによって、そう呼ばれるようになったとのことである。「たくわん」と「たくあん」、こんな由来によるものだろう。

 「たくあん」は、大根を乾燥させて食塩と米糠を混ぜたものに漬けるが、防腐や味つけを兼ねて唐辛子を添える。乾燥の程度はたくあんの歯切れに影響し、遅く食べるものほどよく乾燥させ、また長期貯蔵のものほど食塩の割合を多くする。長期保存用の「本たくわん漬」は 11月~12月にかけて漬込む。日当たりのいい軒先にぶら下げておくと、曲げても折れないくらい柔らかさになる。それを揉みほぐして樽に漬け込むのであるが、漬け方は周知のことであるから省略する。黄色付けには市販の着色剤もあるが、筆者はクチナシの実を潰して入れた。私の好みの味は、少し臭いくらい発酵が進んだたくあんの古漬けである。そのままでも美味であるが、それを輪切りにして煮物(佃煮)にしたものが図3で、昔懐かしふるさとの味である。

大根干し 古漬け 佃煮
図1. 大根干し 図2. 大根の古漬け(約1年) 図3. 古漬けの佃煮ゴマかけ

大根の古漬けと佃煮
 作り方は、古漬けの大根を輪切りして、塩抜きのため一晩、水に浸しておく。
 水切りしたのちゴマ油で炒め、出し汁に醤油や砂糖を入れて柔らかくなるまで煮込む。
このような、たくあんの煮物は、京都、滋賀、三重、それに北陸3県(福井、石川、富山)で行われているが、三重県では「あほ炊き」とちょっと失礼な名前がついている。筆者の母親は、甘辛く煮付けた「たくあんの佃煮」と言っていた。

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